「コールサック」日本・韓国・アジア・世界の詩人

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矢口 以文 (やぐち よりふみ)

<経歴>


1932年、宮城県石巻市生まれ、北海道札幌市在住。

詩集『冬の神話』、『にぐろの大きな女』、『夜の木立』、『先祖たち』、『イエス』、『呼ぶ声』、『目を覚ましている木』、『周辺の人々』、『天国の宴会』、『詩ではないかもしれないが、どうしても言っておきたいこと』

英文詩集『A Shadow』『How to Eat Loaches』『Three Mennonite Poets』『A FORLORN DOG』『The Poetry of Yorifumi Yaguchi』。

翻訳『シド・コーマン詩集 良い時に』『ジョン・ホーランダー詩集』『アン・セクストン詩集』『クンツ詩集 20の夢』『R・バックウォルター詩集 バイバイ、おじちゃん』『M・ハットフィールド評論集 良心への服従』。

研究書・評論集『アメリカ現代詩の一面』『老いの意味を探るアメリカの詩人たち』『響き合う言葉』。

日本キリスト教文学会会員。

「新現代詩」「Aurora」に参加。

<詩作品>



爆弾穴
 ―戦争中僕らの町に海軍航空基地があった―



基地周辺の農地にも
空軍の爆弾が落ちて
平屋が一軒入るほどの巨大な穴を
いくつも開けた 水がじわーっと湧いた


敵機が去った後 水が
たっぷりたまったその穴に
こっそり 泳ぎに行ったものだ
「危ないから泳ぐな」と言われてはいたが


僕らは白い歯を見せて
犬搔きを楽しんだ
真っ青な空が浮かぶその水は
ひんやり澄み切っていた


或る時 去ったはずの敵機が一機
戻ってきた
必死に草むらに飛び込んだ僕らに
銃弾の驟雨が襲い掛かった


やがてやっと不気味な静けさが戻って
恐る恐る顔を上げると
一人がうつぶせになって浮かんでいた
背中から血が噴出し 水は真っ赤に染まっていた




三光作戦
 ―日本陸軍はかつて中国の町や村を
    殺し尽くし、奪い尽くし、焼き尽くした―


「やれ!と命令されたから
やったんです。やらなきゃ 
命令不服従ということで
こちとらが危なくなった―」


緒方さんは亡くなる少し前 ふっと
重たい口をこじあけて ぼそっと
つぶやいた「やりたくなかったが
やる以外に方法がなかった―」


日の丸掲げて無差別殺略を行った兵たちは
問われると「喜んでやった者たちもいたが、
俺は仕方なくやった」と
ほとんどが口を同じ形にしてつぶやく


貧しい出身の兵たちは
命令がどんなものであったとしても
ただ従うように
仕組まれていた―


私たちもやがて命令されるかもしれない
命令されたら どんなことであっても
ただ従うようになるかもしれない
そのように今仕組まれているから


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